マンションでも「楽器を演奏したい」「大音量で映画を視聴したい」という方は少なくありません。そんなときに、おすすめなのが「防音室」です。本稿では、マンションの一室を防音室にする工事費用と期間、メリットや工事の流れについて解説します。
マンションの一室を防音室にする3つの方法
マンションの一室を防音室にする方法によってメリット・デメリットがあるので、防音にしたい目的に合うものを選びましょう。
マンションの一室を防音室にする3つの方法を解説いたします。
1. 一室丸ごとリフォームする
高い防音効果を求めるのなら、壁や床、天井、窓など一室まるごと防音の素材、機能の高いものに交換するのがおすすめです。ここまですれば、ピアノやギター、ドラムなど大きな音の出る楽器を思いっきり演奏したとしても、まず周りに迷惑はかかりません。ただし、全体的にリフォームするだけに、ほかの方法に比べて費用は高額です。
2. 組立式防音室を設置する
室内に組立式の防音室を設置する方法です。キットを組み立てるだけなので、一室丸ごとリフォームするよりも費用は抑えられ、施工にかかる期間も短縮できます。また、マンションの利用規約で丸ごとのリフォームが難しくても、組立式なら可能です。箱状のため大きさによっては、大きな楽器は演奏しづらいことがありますので、注意しましょう。
3. 部分的にリフォームする
角部屋や屋上階のように防音にしたい方向が限られている場合には、部分的にリフォームという方法もあります。天井だけ、床だけ、一方向の壁だけ、と部分的な工事になるので丸ごとのリフォームよりは費用を抑えられます。
ただし、あくまで部分的な防音のため遮音性能はあまり高くなく、楽器の演奏のような大きな音の遮音には不向きです。
マンションに防音室を設置する費用相場
一室丸ごとリフォームや組立式防音室、部分的なリフォームなどマンションに防音室を設置する費用は方法によって異なるので、各方法の費用相場をまとめました。
一室丸ごとリフォームの場合
一室丸ごとリフォームには、壁との間にもうひとつ空間(防音室)をつくることで高い遮音性能が期待できる「Box in Box工法」や、防音の素材を天井や床、壁に直接施工することで遮音性能を高める「GL工法」などいくつか工法があり、どれを選ぶのかで費用は変わります。
ここではBox in Box工法を例に相場をまとめました。
4.5帖:約250~300万円
6.0帖:約300~350万円
8.0帖:約350~400万円
組立式防音室の場合
一室丸ごとリフォームと同様に、組立式防音室もまたメーカーや製品によって費用は変わります。
一般的な機能のものを想定し相場をまとめました。
0.8帖(声楽・ギターなどを練習できる広さ):約60~80万円
2.0帖(アップライトピアノが設置できる広さ):約100~150万円
3.0帖(グランドピアノまで設置できる広さ):約130~180万円
4.3帖(シアターやピアノレッスンに利用できる広さ):約170~230万円
なお、組立式防音室には「レンタル」もあります。中古の製品であればレンタル料が月額1万円ほどのものもあるので、まずはレンタルで試すのもよいでしょう。
部分的なリフォームの場合
部分的なリフォームでは施工の範囲と、使用する部材のグレードによって費用が変わります。
ここでは一般的な広さと部材を想定し相場をまとめました。
床材の張り替え:約25~30万円
遮音マットの敷設:約30~60万円
壁面に吸音材の敷設:約18~25万円
換気口を防音仕様に変更:約2~5万円
窓ガラスを防音仕様に変更:約5~13万円
なお、部分的なリフォームで時間をかけて全体を防音仕様にするのと、丸ごとリフォームするのとでは、丸ごとのほうが防音性能は高くなります。なので、もし最終的に全体を防音仕様にしたいのであれば、初めから丸ごとリフォームするのがおすすめです。
マンションに防音室を設置するまでの期間
マンションに防音室を設置するには、どの方法にせよまずは専門業者に問い合わせをして、打ち合わせ、施工、引き渡しとある程度の期間がかかります。
一室丸ごとリフォーム:2~3ヵ月
組立式防音室:10日前後
部分的なリフォーム:1~2ヵ月
当然ながら、一室丸ごとリフォームや部分的なリフォームのように大掛かりなものほどかかる期間は長く、組立式防音室のように設置が簡単なものは短い期間です。
マンションの一室を防音室にするメリット
マンションにお住まいの方が、マンションの一室を防音室にするメリットを3つご紹介します。
1. 本格的に楽器を演奏できる
マンションにお住まいの方にも、ピアノやギター、ドラムなどの楽器を趣味としている方は多いでしょう。なかには、プロの演奏家という方もいるかもしれません。しかし、マンションのように自室と左右上下の部屋が壁や床でつながった環境では、あまり大きな音は出せません。ピアノやギター、ドラムのように大きな音が出る楽器を演奏すれば、「騒音問題」でご近所トラブルに発展してしまう可能性もあります。
そこで、一室を防音室にすると近隣や家族に迷惑をかけず演奏を楽しめます。
2. 大音量で映画・ドラマを視聴できる
お隣との壁が薄いと、マンションでも些細な物音が周囲に漏れてしまうことがあります。小さな生活音くらいであればまず迷惑にはならないでしょうし、映画やドラマも一般的な音量であればお互い様ということで相手も許してくれるでしょう。
しかし、大きな画面と高音質なスピーカーを設置して、映画館のような環境で「周りを気にせず映画や音楽を楽しみたい」という方は、壁が薄い物件はもちろん、普通のマンションでも周囲に音が漏れて迷惑になるため、防音室が必要です。
3. 鳴き声の大きなペットを飼える
マンションにも「ペット可」の物件は多くあります。しかし、いくらペット可でも、周囲の住民がすべてペット好きとは限りません。なかには、ペットは好きでも「鳴き声がうるさいのは困る」という方もいるでしょう。
あまり鳴かない動物や鳴いても声が小さい動物であれば気にする必要はないのですが、大型犬のように鳴き声の大きな動物を飼うときには防音室を設置するのがおすすめです。
ペットもストレスなく生活できるでしょう。
マンションに防音室を設置するまでの流れ
マンションの一室を防音室にするには、まずは防音室の施工を扱っている専門業者に問い合わせることから始まります。
防音室の設置までの流れを見ていきましょう。
お打ち合わせと現地調査:大まかな要望のヒアリングと現地で物件の状態を調査する
プランの作成:ヒアリングの内容をもとに、図面などで施工プランを作成する
見積もりの作成:作成した施工プランに応じた、およそかかる費用を算出する
ご契約:見積もりの内容に問題がなければ、防音室の施工に向けて契約をかわす
着工:あらかじめ決めておいた施工スケジュールに合わせて、工事を進めていく
完成と引き渡し:施工が完了したら、仕上がりを確認したのち引き渡し
なお、引き渡し後に不具合が発覚してトラブルになるのを防ぐため、仕上がりの確認は必ず依頼者が立ち会いましょう。その際に何らかの不具合があれば、その場ですぐに指摘しておくとその後の修正依頼をスムーズに進められます。
防音室を設置する際に知っておきたい用語
楽器や映画、ペットなど防音室を設置する目的はそれぞれあるわけですが、何となく業者に依頼して防音室を設置することはおすすめしません。なぜなら、防音室と一括りにしているものの、使用される部材や工法によって防音の質は異なるためです。
十分な防音効果がなかったと後悔しないよう、最低限の知識を身につけておくと安心です。
知っておきたい防音の知識(用語)を3つ解説いたします。
1. デシベル(音の大きさ)
デシベル(dB)とは音の大きさの単位です。ただ、「何デシベルだから騒音です」といわれてもイメージがつきづらいため、例を挙げて解説いたします。[注1]
30dB(静か):郊外の深夜やささやき声
50dB(普通):家庭用クーラー(室外機)や換気扇
70dB(うるさい):セミの鳴き声やヤカンの沸騰音
90dB(かなりうるさい):犬の鳴き声や工場のなか
120dB(聴覚に異常をきたす):ジェットエンジンや車のクラクション
上記から、50dBを超えてくると、うるさく感じてしまうことがわかります。マンションに防音室を設置する際には、最低50dB以下になるよう工事するとよいでしょう。
2. ヘルツ(音の高さ)
ヘルツ(Hz)とは音の高さの単位です。数字が小さくなるほど低音、大きくなるほど高音とされます。
たとえば、ピアノだと鍵盤番号1番の「ラ」が30Hzほどで低音、88盤の「ド」は4,000Hzほどで高音です。人の耳は20Hz~20,000Hzの範囲の音を拾うことができ、なかでも1,000Hz以上になるほど大きな音として聴こえます。[注2]
つまり、高音を発生させる楽器を演奏される方は、とくにしっかりとした防音室が必要です。
3. 遮音性能基準
遮音等級とは建物や部屋の遮音性能を示した基準です。
遮音等級には
壁やサッシ(窓)を通じて外(隣の部屋、野外)から伝わる音の遮音性能を示すもの
床を通じて上階や下階から伝わる音の遮音性能を示すもの
の2種類の等級があります。
壁やサッシは「D数値」で示され、数値が高いほど遮音性能は高いとされます。対して、床は「L(または、LHやLL)数値」で示され、数値が小さいほど遮音性能は高いです。たとえば、壁やサッシでは、D-55以上あれば十分な遮音性能と考えられます。[注3]
防音室の設置で自由なマンションライフを実現!
本稿では、マンションに防音室を設置するときの流れや、費用相場とかかるおよその期間についてご紹介してきました。防音室の設置には、主に「一室丸ごとリフォーム」「組立式防音室」「部分的なリフォーム」の3つの方法があり、それぞれ遮音性能、費用と期間が異なるため、防音室に求める性能と予算に合わせて選びましょう。ぜひ、防音室を設置してより快適で、自由なマンションライフを実現してください。
[注1]日本騒音調査 ソーチョー:騒音値の基準と目安
[注2]ユカテック:音を科学する
[注3]住宅サポート建築研究所:建物性能の基礎知識/遮音性能