
防音室の入口、最適な選択は?タイプと性能別防音ドアと
ガラスサッシについて、特徴とメリットデメリットを解説。
はじめに:防音室の成功は「入口」で決まる
ご自宅に防音室のリフォーム工事を計画されていたり、新築の場合でも防音室付きのご自宅をご検討中だったりする方にとって、壁や床、天井の防音性能は非常に気になるポイントでしょう。しかし、それらと同じくらい、いや、時としてそれ以上に重要なのが「入口」の選択です。
音は空気の振動。わずかな隙間からも漏れ出してしまいます。そのため、防音室の入口は、音漏れにおける最大のウィークポイントになりがちです。どんなに高性能な壁を作っても、入口の対策が不十分であれば、その効果は半減してしまいます。
では、防音室の入口について何がよいのでしょう?
大きく分けると、入口には「防音ドア」と「防音ガラスサッシ」の2つの選択肢があります。それぞれに様々な種類があり、性能、コスト、デザイン、そして使い勝手が異なります。この記事では、入口のタイプと、それぞれの特徴について詳しくご紹介し、あなたの理想の防音室作りをサポートします。
防音性能の指標「D値」とは?
防音性能を語る上で欠かせないのが「D値(Dr値)」という指標です。これは日本工業規格(JIS)で定められた遮音性能を表す等級で、数値が大きいほど遮音性能が高いことを意味します。例えば、D-30であれば、500Hz(ヘルツ)の音を約30dB(デシベル)減衰させる能力があることを示します。
以下はD値の目安です。
- D-30:ピアノの音がまあまあ聞こえる程度。
- D-40:ピアノの音は遠くで聞こえる。
- D-45:かなり大きな音量のピアノでも、小さく聞こえる。
- D-55:ドラムセットの演奏音も、小さく聞こえるプロレベル。
防音室の入口を選ぶ際は、このD値を一つの基準として、どの程度の遮音性が必要かを考えることが重要です。それでは、具体的な入口の種類を見ていきましょう。
【防音ドア編】種類と特徴を徹底解説
防音室の入口として最も一般的なのが防音ドアです。素材や構造、メーカーによって様々な選択肢があります。
1. メーカーさんの製品木製防音ドア
※DAIKENさんの防音ドアには人気のガラス入りデザインもあります。
- 特徴:メーカー製品の為、コストが抑えられる点が最大のメリットです。性能は500Hzで−30dB程が目安です。
- 注意点:住宅用の製品の為、店舗や公共施設など不特定多数の人が利用する空間には、向いていない場合があります。耐久性やハンドルの仕様などを確認しましょう。
- 納期:メーカーに在庫があれば、3〜4日程で手配可能です。(在庫が無ければ2週間程かかることもあります。)
<こんな方におすすめ>
コストを抑えたい方、バイオリンやアコギの練習、ゲーム部屋や配信、DTMなど、一般的な家庭での利用を考えている方に向いています。
2. 昭和音響のオリジナル木製防音ドアD35
- 特徴:自由設計のオーダードアとして、寸法もデザインも思い通りに製作可能です。例えば、既存の建具とデザインを合わせたり、好きな色柄の仕上げ、防音FIXガラスを設けたりといった要望にも応えられます。
- コスト:オリジナルで製作する為、メーカー製作よりも割高になる傾向があります。
- 納期:受注生産のため、製作期間として10日程かかります。
<こんな方におすすめ>
防音室をインテリアの一部として捉え、デザイン性にこだわりたい方、特殊なサイズの入口が必要なリフォーム案件などに最適です。
3. 昭和音響の設計、提携工場で作るセミオーダーの鋼製防音ドアD35 D40 D45
- 性能:防音室やスタジオの用途により選べる遮音性能(D-35, D-40, D-45)が魅力です。ドラムや金管楽器、大音量でのオーディオ鑑賞など、高いレベルの防音が求められる場合に真価を発揮します。
- デザイン:昭和音響でドアデザインを設計するので、寸法をはじめ、ドアにガラスを入れるようなデザインも製作可能です。無骨なイメージのある鋼製ドアですが、デザインの自由度は意外と高いのです。木目シート張りで仕上げると木製のような質感も作る事ができます。
- コスト:性能や自由度が高い分、コストも上がります。特に、提携工場から出荷されるので、重量大型品の配送料が発生します。配送料などの付帯費用も合わせるとコストが多くなる点に注意が必要です。
- 音響特性:楽器や音源によっては、鉄製トビラからの反射音が耳障りとなったり、収録音源には適さない反射音となるケースもありトビラへの吸音処理が必要となる場合もあることを覚えておく必要があります。
- 納期:発注から納品まで1ヶ月程かかります。
<こんな方におすすめ>
レコーディングスタジオ、ドラム練習室、ホームシアターなど、最高の遮音性能を求めるプロユースやハイアマチュアの方に最適です。
4. メーカーさんの木製防音ドアを2セット取付D45
- 性能:例えばD-30の木製防音ドアを2枚設置することで、理論上はD-45クラスの高い遮音性能を期待できます。防音室の内側と外側にそれぞれドアを設ける形になります。
- メリット:既存のドアはそのままに、内側にもう1枚追加することで性能をアップグレードすることも可能です。
- デメリット:ドアを2回開閉する手間がかかります。また、2枚のドアの間に「空気層」という空間が必要になるため、壁の厚みが増し、設置スペースが余分に必要になります。
<こんな方におすすめ>
鋼製ドアほどのコストはかけられないが、D-40以上の高い性能が必要な方。既存の防音室の性能をアップさせたい方。
【防音ガラスサッシ編】開放感と性能を両立
1. 防音ガラス入り、引違いサッシ1セットD20
- 性能:D-20相当の遮音性能です。これは、人の話し声が小さくなる程度で、楽器演奏の防音としては正直なところ不十分です。
- メリット:視認性が高く閉塞感がない防音室を作る事ができる点は大きな魅力です。防音室越しの採光にも効果あり、部屋全体が明るくなります。また、開口部が広いため、ピアノなどの大型楽器や大型家具の搬入をしやすいなど、メリットが多いです。
- 注意点:1セットでは、少し不安な性能であるため、本格的な楽器演奏には向きません。用途を限定して採用を検討する必要があります。
<こんな方におすすめ>
隣室への音漏れを少し軽減したい程度の用途(例:リビングのテレビの音漏れ対策など)や、視認性を最優先したい場合に限られます。
2. 防音ガラス入り、引違いサッシ2セットD40
サッシ1セットでは心もとない性能を補うのが、サッシを2セット設置する「二重サッシ(内窓)」です。防音ドアと同様に、サッシも二重にすることで性能が格段に向上します。
- 性能:2セットつければ、防音ドアと同等の性能が実現できる可能性があります。D-40相当の性能が期待でき、ピアノ演奏などにも十分対応できるレベルになります。
- メリット:サッシ1セットのメリット(視認性、開放感、採光、搬入のしやすさ)はそのままに、高い遮音性能を両立できます。
- 音響特性:ドアと同様に、音の反射には注意が必要です。楽器や音源によっては、ガラスからの反射音が耳障りだったり、収録音源には適さない場合もあるため、ガラス前にカーテンや吸音縦型ブラインドなど響きの調整が必要になる場合があります。
- 納期:こちらも発注から1ヶ月程かかります。
<こんな方におすすめ>
ピアノ教室や音楽教室など、外部から内部の様子が見える必要がある方。防音室の圧迫感をなくし、明るく開放的な空間にしたい方。
まとめ:あなたに最適な入口は?
ここまで、様々な種類の防音室の入口をご紹介してきました。最後に、それぞれの特徴を一覧表で比較してみましょう。
種類 | 性能(D値目安) | コスト | デザイン性 | 納期目安 | 主なメリット |
---|---|---|---|---|---|
メーカー製木製ドア | D-30 | 安い | 標準的 | 3~4日 | コストパフォーマンス、短納期 |
オリジナル木製ドア | D-35 | やや高い | 高い(自由設計) | 約2週間 | デザイン・寸法の自由度 |
セミオーダー鋼製ドア | D-35/40/45 | やや高い~高い | 高い(ガラスも可) | 約1ヶ月 | 最高の遮音性能、高いデザイン性 |
木製ドア x 2セット | D-45 | やや高い | – | 3~4日 | 高い遮音性能、既存改修も可 |
防音サッシ x 1セット | D-20 | 安い | 高い | 約1ヶ月 | 開放感、視認性、採光、搬入の容易さ |
防音サッシ x 2セット | D-40 | やや高い | 高い | 約1ヶ月 | 開放感と高い遮音性能の両立 |
防音室の入口選びは、単に「音を止めれば良い」という単純な話ではありません。演奏する楽器の種類、求める静けさのレベル、ご予算、お部屋のデザイン、そして何よりも「その部屋でどう過ごしたいか」というライフスタイルによって最適な答えは変わってきます。
例えば、趣味でアコースティックギターを弾くならメーカー製の木製ドアで十分かもしれません。しかし、お子様のためのピアノ教室を開くなら、開放感と性能を両立した二重サッシが喜ばれるでしょう。プロを目指してレコーディングを行うなら、反射音の対策まで考慮した鋼製ドアが必須となります。
防音工事は決して安い買い物ではありません。だからこそ、入口選びで後悔しないために、専門的な知識と豊富な経験を持つプロフェッショナルに相談することが不可欠です。ご自身の希望をしっかりと伝え、それぞれの選択肢のメリット・デメリットを十分に理解した上で、最高の防音室を実現してください。

